残業代は何時間から支給される? 残業代と割増賃金の基礎知識
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三重県の統計データによると、三重県内の事業所(事業所規模5人以上)における2024年3月の平均総実労働時間は136.1時間で、前年同月比2.9%の減少となりました。
所定労働時間を1分でも超えて働いた場合、従業員は会社に対して残業代を請求できます。たとえば、「1日1時間以上残業しなければ、残業代を支払わない」といった取り扱いは労働基準法違反です。もし、正しく残業代が支払われていない場合は、弁護士のサポートを受けながら、会社に対して未払い残業代を請求しましょう。
今回は、残業代の支給に関する労働基準法のルールについて、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
出典:「賃金・労働時間・雇用の動き(令和4年9月)」(三重県)
1、残業時間とは|種類・割増賃金率
いわゆる「残業」とは、労働契約・就業規則で定められる所定労働時間を超える労働や、休日・深夜の労働の総称です。残業を行った労働者に対して、会社は残業代を支払う義務を負います。具体的に労働者に支払われるべき残業代の金額(法定の割増率を乗じて計算した金額)は、残業時間の種類によって異なります。
まずは残業時間の種類と、各残業時間に適用される割増率を確認しておきましょう。
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(1)法定時間内残業|割増なし
所定労働時間を超え、かつ法定労働時間※の範囲内の残業を「法定時間内残業」といいます。
※法定労働時間:原則として1日8時間、1週間40時間(労働基準法第32条)。
法定時間内残業が発生し得るのは、所定労働時間が法定労働時間を下回っている場合です。
たとえば、所定労働時間が1日7時間の会社で8時間働いた場合、7時間~8時間の1時間分が法定時間内残業に当たります。法定時間内残業については、割増率は適用されず、通常の賃金を支払えば足ります。 -
(2)時間外労働(法定時間外残業)|割増率25%以上
法定労働時間を超える残業を「時間外労働(法定時間外残業)」といいます。会社が従業員に時間外労働をさせるためには、労使協定(36協定)の締結が必要です(労働基準法第36条第1項)。
たとえば、1日9時間働いた場合、8時間を超える1時間分が時間外労働に当たります。
時間外労働については、通常の賃金に対して、25%以上の割増賃金が支払われます。また、月60時間を超える時間外労働については、通常の賃金に対して50%以上※の割増賃金が支払われます(労働基準法第37条第1項)。
※中小事業主には令和5年(2023年)4月から適用されます。 -
(3)休日労働|割増率35%以上
法定休日に行われる労働を「休日労働」といいます。会社が従業員に休日労働をさせるためには、労使協定(36協定)の締結が必要です(労働基準法第36条第1項)。
休日労働については、通常の賃金に対して、35%以上の割増賃金が支払われます(労働基準法第37条第1項、労働基準法第37条第1項の時間外および休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。
なお、法定休日は原則として、1週間につき1日のみです。1週間に複数の休日がある会社の場合、以下の要領によって1日だけが法定休日、それ以外の休日が法定外休日となります。(a)就業規則等で法定休日が指定されている場合
就業規則等の定めに従います。
(b)就業規則等で法定休日が指定されていない場合
1週間の起算日の定めがない場合は、日曜から土曜を1週間として、土曜日が法定休日となります。
休日労働として取り扱われるのは、法定休日に行われる労働のみです。これに対して、法定外休日に行われる労働は、時間外労働として取り扱われます。
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(4)深夜労働|割増率25%以上
午後10時から午前5時までに行われる労働を「深夜労働」といいます。深夜労働については、通常の賃金に対して、25%以上の割増賃金が支払われます(労働基準法第37条第4項)。
なお、深夜労働の割増賃金は、時間外労働・休日労働の割増賃金と重複して適用されます。(例)
午後10時から午前0まで時間外労働をした場合
→割増賃金率は50%以上(月60時間を超える部分については75%以上)
2、残業代は何時間から支給されるのか?
会社によっては、「1日1時間以上残業しなければ、残業代を支払わない」などのルールを設けているところもあるようです。しかし、このような取り扱いは違法です。
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(1)所定労働時間を1分でも超えれば、残業代が発生する
労働契約・就業規則で定められる所定労働時間を1分でも超過すれば、会社は従業員に対して残業代を支払う義務を負います。
したがって、会社は従業員の残業時間を1分単位で集計・把握したうえで、正しい割増賃金率を適用して計算した残業代を支払う必要があるのです。 -
(2)みなし残業代制が適用される場合の取り扱い
「みなし残業代制(固定残業代制)」が適用される従業員については、あらかじめ定められた残業時間(固定残業時間)までは、追加残業代が発生しません。
ただし、会社がみなし残業代制を導入する場合、以下の事項を従業員に明示していなければなりません。(a)固定残業代を除いた基本給の額
(b)固定残業時間と、固定残業時間に対応する固定残業代の計算方法
(c)固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を追加で支払う旨
また、上記(c)のとおり、固定残業時間を超えて残業をした場合は、超過分について1分単位で残業代が支払われます。
3、残業代の計算方法
労働者に支払われるべき残業代の金額は、以下の流れで計算します。
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(1)1時間当たりの基礎賃金を計算する
まず、残業代計算のベースとなる「1時間当たりの基礎賃金」を計算します。
「基礎賃金」に含まれるのは、給与計算期間(月給制であれば1か月)に支給された賃金から、以下の各手当を除いたものです(※ただし、各種手当が一律に定額で支払われている場合は、除外せず基礎賃金に含めます)。- 残業代
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
基礎賃金を月平均所定労働時間※で割ることで、1時間当たりの基礎賃金が求められます。
※月平均所定労働時間=1日の所定労働時間×1年間の所定労働日数÷12か月(例)
- 1か月間の基礎賃金:30万円
- 1日の所定労働時間:7.5時間
- 1年間の所定労働日数:240日
=30万円÷(7.5時間×240日÷12か月)
=2000円 -
(2)残業時間を種類別に集計する
次に、残業時間を残業の種類別に集計します。
(例)
- 法定時間内残業:10時間
- 時間外労働:20時間(うち深夜労働2時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働2時間)
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(3)残業代の金額を計算する
最後に、以下の式によって残業代の金額を計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
(例)
- 1時間当たりの基礎賃金:2000円
- 法定時間内残業:10時間
- 時間外労働:20時間(うち深夜労働2時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働2時間)
(a)法定時間内残業の残業代
2000円×10時間=2万円
(b)時間外労働の残業代(深夜労働2時間を含む)
2000円×125%×18時間+2000円×150%×2時間=5万1000円
(c)休日労働の残業代(深夜労働2時間を含む)
2000円×135%×8時間+2000円×160%×2時間=2万8000円
残業代の合計
=2万円+5万1000円+2万8000円
=9万9000円
4、未払い残業代請求は弁護士にご相談を
勤務先の会社から正しく残業代が支払われていない場合は、未払い残業代請求について弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、労働基準法に沿って正確に残業代を計算したうえで、法的な根拠に基づいて会社に対する未払い残業代請求を行います。実際の協議・労働審判・訴訟などを通じた請求についても、弁護士が全面的に行います。
従業員の方がご自身で未払い残業代請求を行ったものの、会社が無視をしたり言い訳して開き直ってしまったりして解決へと向かわないケースがあります。また、残業代請求には時効の問題もあります。そこで、弁護士を通じて、状況に合わせた手続きを活用して請求を行えば、残業代未払いの問題が着実に解決へと前進するでしょう。
ご自身の労働者としての権利を守り、会社から適正な残業代を早期に受け取りたい場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労働契約・就業規則で定められる所定労働時間を超えた労働は、1分単位で残業代が発生します。法定休日や、午後10時から午前5時までに行われる労働についても、1分単位で残業代支給の対象となります。
労働基準法のルールを順守せず、正しい残業代を支払わない会社は少なくありません。もし会社から適正な残業代が支払われていない場合には、弁護士にご依頼のうえで未払い残業代請求を行うことをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所は、労働者の未払い残業代請求に関するご相談を、随時受け付けております。会社から支払われている残業代の金額に疑問がある方や、不本意にサービス残業を強いられている方などは、未払い残業代請求についてベリーベスト法律事務所 津オフィスにご相談ください。
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