昇給ありの求人が嘘だった! 違法性の有無と従業員ができること
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求人広告に「昇給あり」「年1回は昇給」などの条件があったため就職を決めたにもかかわらず、何年たっても昇給してもらえないというケースがあります。
求人広告の内容が嘘であり、実際の労働条件が異なると感じた場合は、まず就業規則を確認しましょう。また、上司や労働基準監督署への相談など、対処方法はいくつもあります。
この記事では、昇給ありの求人が嘘だった場合の具体的な対処法や相談先などについて、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
1、求人票にある「昇給あり」の意味と昇給の種類
求人票にある「昇給あり」とは、そもそもどのような意味なのでしょうか。以下では、昇給に関する基本的事項について説明します。
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(1)求人票にある「昇給あり」とは?
昇給とは、その言葉のとおり、給料が上がることをいいます。昇給が行われるタイミングや条件については、会社ごとで異なってきますが、日本の多くの企業では、毎年定期的に給料が上がる「定期昇給」が採用されてきました。
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(2)昇給制度の種類
昇給制度には、主に以下の3つの種類があります。
- ① 定期昇給
定期昇給とは、時期を定めて定期的に実施される昇給のことをいいます。昇給の回数や時期は、会社によって異なりますが、年1~2回程度、定期昇給を実施する企業が多いようです。
- ② 臨時昇給
臨時昇給とは、定期昇給のように時期を定めて実施される昇給ではなく、不定期に実施される昇給のことをいいます。臨時昇給は、会社の業績が好調な場合や労働者個人が特に優れた成果を上げた場合などに行われることが多いようです。
- ③ 査定昇給
査定昇給とは、会社の業績や労働者の勤務態度などの評価に基づいて行われる昇給のことをいいます。
- ① 定期昇給
2、事実上昇給がないときは就業規則を確認!
事実上昇給がないときは、会社の就業規則を確認するようにしましょう。
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(1)就業規則とは
就業規則とは、労働時間、給料、服務規律、福利厚生など職場内のルールを網羅的に整理して定められた規則のことをいいます。就業規則は、職場内のルールブックとして機能しますので、労働者および使用者にとって重要なものとなります。
通常、会社が労働者を雇うとき、両者の間で労働契約が締結されます。このとき、労働条件は、労働契約内容によって判断することになります。しかし、会社には、多くの労働者が在籍していますので、一人ひとり詳細な契約内容を定めて管理するのは非効率的であり、困難です。
そこで、労務管理を効率的・画一的に行うため、就業規則で合理的な内容の労働条件などを定め、周知させておくことにより、就業規則の内容がすべての労働者の労働契約内容となります。 -
(2)就業規則で確認すべき事項
昇給の有無も労働条件のひとつですので、就業規則に昇給に関する事項が記載されている可能性があります。
そこで、まずは、就業規則で以下のような記載の有無およびその内容を確認してみるとよいでしょう。- ① 昇給の要件
昇給の要件としては、主に労働者の年齢や勤続年数、会社の業績などが定められていることがあります。定期昇給以外にも臨時昇給や査定昇給が制度化されている場合には、それぞれの要件が定められていることもあります。
- ② 昇給の時期
昇給の時期としては、年1~2回の特定の月を定めていることがあります。具体的なタイミングとしては、会社の決算後や新卒の入社後などが多いようです。
- ③ 昇給額または昇給率
昇給額や昇給率が具体的に定められている場合には、それに基づいて昇給後の給料を計算することができます。しかし、近年では年功序列制度の見直しが進んでいる会社も多く、一律に昇給額や昇給率を定めていないこともあります。
- ① 昇給の要件
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(3)会社に就業規則がない場合はどうする?
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する使用者において作成が義務付けられています(労働基準法89条)。
労働者には、正社員だけではく、契約社員、パート、アルバイトも含みますので、10人以上の労働者がいるにもかかわらず、就業規則が作成されていない場合には、労働基準法違反となります。
就業規則がない場合には、労働者と会社との個別の合意が労働契約内容となりますが、合意がない部分については、労働基準法などで定める基準が適用されます。昇給の有無および内容は、労働基準法などでは規定はありませんので、労働者と会社との個別合意で昇給の有無および内容が定められていなければ、昇給を求めていくことは難しいでしょう。
3、昇給ありの条件で就職したのに昇給がない場合にできること
昇給ありの条件で就職したにもかかわらず、昇給がない場合には、以下のような対処法が考えられます。
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(1)上司への相談
昇給について疑問や不満がある場合には、上司に直接相談してみることもひとつの対処法です。上司に相談することによって、入社時の条件である昇給を実現するために会社を説得してもらうことができる可能性もあります。ただし、上司に相談する際には、昇給がないからといって感情的に責め立ててはいけません。入社時の説明や提示された条件などを示しながら、冷静に説明することが大切です。
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(2)転職の検討
昇給がない会社だと、今後どれだけ会社のために頑張ったとしても、昇給という形で評価してもらうことはできません。昇給制度が就職を決めたきっかけである場合には、会社に見切りをつけて、昇給制度がしっかりと整備された別の会社への転職を検討することも必要です。
なお、別の会社に転職する際は、今回のようなことがないようにするためにも、面接時や契約時には昇給の有無や条件などを明らかにしてから就職を決めるようにしましょう。 -
(3)求人内容どおり昇給を求めることができるケースもある
労働者としては、求人情報の「昇給あり」という条件を見て、会社の求人に応募し、採用されていますので、当然、定期的な昇給があるものと考えて契約をしています。
入社時に求人広告とは異なる労働条件であることの説明を受けていた、もしくは「昇給なし」という内容の労働契約書にサインをしていない限りは、求人内容を証拠の一つとして昇給の交渉をしていく余地があります。
このようなケースでは、労働者は、会社に対して、昇給を求めることができる可能性もありますので、まずは労働トラブルの解決実績がある弁護士に相談をしながら、今後の対応を決めていくことをおすすめします。
4、そもそも求人内容が嘘だったときの相談先
そもそも求人内容が嘘であった場合の相談先としては、以下のところが挙げられます。
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(1)労働基準監督署
労働基準監督署では、管轄内の企業が労働基準法などの労働関連法令に違反していないかどうかの監督指導を行っています。労働基準法では、賃金や労働時間などの労働条件については、書面で明示することが求められています(労働基準法15条、同法施行規則5条)。また、昇給に関する事項は、書面での明示までは求められていないものの、明示自体は求められています。そのため、求人内容が嘘であり、労働契約の締結に際して昇給がないことの明示がなかった場合には、労働条件の明示義務に違反している可能性があります。
そのため、このようなケースでは、労働基準監督署に相談をすれば、労働基準監督署による是正指導によって、状況が改善される可能性もあるでしょう。 -
(2)ハローワーク(公共職業安定所)
ハローワークで公開、紹介している求人内容と実際の労働条件とが異なっている場合には、ハローワークで相談を受け付けています。労働者の側から就職希望の会社に直接伝えることが難しい場合には、ハローワークを通じて希望を実現できる可能性があります。
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(3)弁護士
求人広告の内容が嘘であり、希望した内容と実際の労働条件が異なっていた場合には、希望する労働条件の実現を求めて会社と交渉をしていく必要があります。
しかし、労働者個人と会社では、交渉力の差があり、そもそも交渉のテーブルについてもらえないことも珍しくありません。
弁護士であれば、労働者の代理人として会社と交渉をすることができますので、対等な立場で交渉を進め、希望する条件を実現できる可能性が高まります。また、弁護士に相談すれば、求人広告、労働契約時に提示された書面、就業規則などの「昇給あり」の労働条件が、虚偽にあたるか否かについても適切に判断してもらうことができます。
求人広告の嘘でお困りの方は、まずは、弁護士に相談するとよいでしょう。
5、まとめ
多くの人材を集めるために、昇給がないにもかかわらず求人広告に「昇給あり」と嘘の記載をする会社もあるようです。昇給の有無は、就職を考える労働者にとって重要な判断要素となりますので、嘘の内容だった場合には非常に悪質な行為といえます。早期に転職を考えるのもひとつの方法ですが、事案によっては、「昇給あり」を前提とした労働条件を認めさせることができる場合もあります。
労働法に基づき適切に会社と交渉するには弁護士のサポートが不可欠となります。まずは、労働トラブルの解決実績のあるベリーベスト法律事務所 津オフィスまでお気軽にご相談ください。
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