外注化による従業員の解雇は認められるのか? 違法となるケースは?
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2022年度に三重県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は1万5837件で、そのうち解雇に関するものは566件でした。
解雇理由の中には、会社が労働者に対して、雇用契約を解消して外注業者として働くように求めるケースがあるようです。「外注の方が稼げる」などと誘われても、安易に企業側の提案に乗ってはいけません。直接雇用に比べて、外注業者に対する法的な保護は手薄いためです。会社から外注化を強く提案されて困っている方は、弁護士にご相談ください。
本記事では労働者の外注化や、それに伴う解雇の問題点などについて、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度施行状況及び均等関係法令に係る相談状況について」(三重労働局)
1、従業員(労働者)の外注化とは?
従業員(労働者)の外注化とは、会社が従業員との雇用契約を終了させ、新たに業務委託契約を締結し、個人事業主として引き続き従前の仕事を任せることをいいます。
外注化が行われた場合でも、仕事の内容は変化しないケースも少なくありません。その反面、外注業者は直接雇用の労働者よりも法的な保護が手薄いのが難点です。
そのため、従業員としては、会社の外注化の提案に対して、安易に応じてはなりません。
2、会社が従業員(労働者)を外注化したい理由
会社が従業員(労働者)を外注化したい理由としては、主に以下の各点が挙げられます。
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(1)固定の人件費を軽減したい
会社は雇用している労働者に対して、仕事の量や内容にかかわらず、毎月基本給を支払わなければなりません。基本給は固定の人件費であり、特に閑散期には会社にとって重い負担となります。
一方、外注業者に対しては、発注した仕事の量や内容に応じた報酬を支払えば足ります。したがって、会社は従業員を外注化することによって固定の人件費を削減し、業務状況に応じて柔軟に人件費を調整できるようになります。 -
(2)社会保険料の負担を軽減したい
フルタイム労働者または一定の条件を満たすパートタイム労働者については、社会保険への加入が義務付けられています。健康保険や厚生年金は会社と労働者の折半なので、会社にとっても少なからず負担が生じます。
これに対して、外注業者を社会保険に加入させる必要はありません。そのため、従業員を外注化すれば、会社は社会保険料の負担を軽減できます。 -
(3)残業代の負担を軽減したい
労働者が残業をした場合、会社は労働基準法に基づいて残業代を支払わなければなりません。
これに対して、外注業者に対する残業代の支払いは不要です。あくまでも契約に従った報酬を支払えば足ります。特に残業の多い会社では、従業員の外注化によって残業代の負担を軽減できます。
3、従業員にとっての外注化のメリット・デメリット
従業員にとって、外注化により労働者から外注業者へと立場が変わることには、メリット・デメリットの両面があります。
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(1)従業員にとっての外注化のメリット
従業員にとって、労働者から外注業者へと立場が変わることの主なメリットは、以下の各点です。
① 働き方を自由に決められる
外注業者には労働者と異なり、発注者である会社の具体的な指揮命令権限は及びません。外注業者は、仕事の進め方や時間配分などを、会社の指示に縛られることなく自由に決めることができます。
② 自由に兼業できる
労働者の副業は、就業規則によって制限されている場合があります。これに対して、外注業者には就業規則が適用されません。そのため、他の会社から仕事を受注する、パートやアルバイトとして働くなど、自由に兼業することができます。
③ 収入が増える可能性がある
労働者の賃金は、仕事をどんなに頑張っても大幅には増えにくいのが一般的です。これに対して外注業者は、受注する仕事を増やしたり、単価交渉をして報酬を上げてもらったりすることで、収入を大幅に増やせる可能性があります。 -
(2)従業員にとっての外注化のデメリット
その一方で、従業員は外注化に伴う以下のデメリットに注意しなければなりません。
① 労働法が適用されなくなる
外注業者には、労働基準法や労働契約法などの労働法が適用されません。そのため、収入や受注量などが不安定になる可能性があります。
② 短期間で契約を打ち切られるおそれがある
労働者の解雇は、解雇権濫用の法理によって厳しく制限されています。これに対して、外注業者には解雇権濫用の法理が適用されないので、発注者から短期間で契約を打ち切られてしまうおそれがあります。
③ ミスをすると損害賠償を請求されるおそれがある
労働者が仕事でミスをしたとしても、会社に対して損害全額について損害賠償責任を負うケースは例外的と解されています。これに対して、外注業者が仕事でミスをした場合は、発注者に生じた損害全額について賠償責任を負うおそれがあります。
4、外注化に伴う一方的な解雇は、違法の可能性が高い
会社が人件費削減などの一方的な都合により、従業員を解雇して外注化することは違法の可能性が高いです。
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(1)整理解雇の4要件(4要素)
従業員の外注化に伴う解雇は、会社の経営不振などを理由とした人件費削減等の目的による「整理解雇」に当たることもあります。
整理解雇は、以下の4要件(4要素)を総合的に考慮して、解雇する客観的・合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限って認められます。① 整理解雇の必要性
整理解雇しなければ経営破綻に追い込まれるほどの危機的状況にある場合や、そこまでは至らなくとも企業の合理的な運営上やむを得ないといえる場合など、解雇について高度の必要性が存在することが求められます。
② 解雇回避努力義務の履行
役員報酬の削減・新規採用の抑制・希望退職者の募集など、解雇を回避するために別の手段を尽くしてもなお、解雇が真にやむを得ないと評価できることが必要です。
③ 被解雇者選定の合理性
整理解雇の対象者は、合理的な基準を策定した上で、その基準を公平に運用して決定する必要があります。
④ 解雇手続きの妥当性
整理解雇に先立って、対象労働者や労働組合に対して説明を尽くし、納得を得るためのプロセスを経る必要があります。 -
(2)外注化に伴う解雇が違法となるケース
経営難による従業員の外注化に伴う解雇の有効性は、上記の整理解雇の4要件(4要素)に照らして判断されます。
たとえば、外注化に伴う解雇が以下のような形で行われた場合には、違法・無効となる可能性が高いです。(例)- 会社の経営状態は特に悪くないが、人件費を削減したいという思惑によって、従業員の整理解雇および外注化が行われた。
- 役員報酬削減などの代替手段が一切講じられることなく、既存労働者の人件費削減を真っ先に行うべきとの経営判断に基づき、従業員の整理解雇および外注化が行われた。
- 整理解雇および外注化の対象とする従業員を、能力や勤務成績などとは関係なく、上司の好みだけに基づいて選んだ。
- 整理解雇および外注化を、対象従業員や労働組合に対して事前に説明することなく、突然行った。
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(3)合意退職は原則適法|ただし退職強要に及ぶ場合は違法
会社と従業員の合意に基づいて雇用契約を終了し、新たに業務委託契約を締結して外注化することは、原則として問題ありません。
ただし、会社が従業員に対して不当に圧力をかけるなど、退職を強要するような行為があった場合には、実質的な解雇として退職が無効となる可能性があります。会社に退職および外注化を強要された方は、速やかに弁護士へご相談ください。
5、外注化に関する不当解雇・偽装請負などの労働問題は弁護士に相談を
従業員の外注化は、会社による一方的な不当解雇や退職強要の形で行われることがよくあります。
また、外注業者となった元従業員に対して、従業員である時と同様に具体的な指揮命令を行うことは「偽装請負」に当たり、各種労働法に抵触する可能性があります。
これらの会社の違法行為に対しては、法的な主張をもって対抗することが可能です。弁護士に相談して、どのような手段を講じ得るかにつきアドバイスを受けましょう。
弁護士には、会社との交渉や労働審判・訴訟などの法的手続きの対応もお任せいただけます。従業員側にとって有利な解決を得られる可能性が高まるとともに、手間やストレスが軽減される点も大きなメリットです。
外注化に関して会社とトラブルになった場合には、速やかに弁護士へご相談ください。
6、まとめ
従業員が会社を退職して外注業者に転じると、働き方の自由度が増し、収入をアップできる可能性がある反面、その地位は非常に不安定なものとなります。
会社から外注業者への変更を提案されたとしても、直ちに応じるのではなく、弁護士のアドバイスを受けましょう。また、一方的に解雇された場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関するご相談を随時受け付けております。雇用契約や業務委託契約などの契約書のチェックや、不当解雇に対抗するための法的手続きなどを、労働問題の解決実績がある弁護士がサポートいたします。
会社から外注化の提案を受けた方や、外注化を巡ってトラブルが生じた方は、まずはベリーベスト法律事務所 津オフィスにご相談ください。
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