離婚給付とは? 取り決め内容を公正証書にした方が良い理由
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三重県が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和2年の三重県内での離婚件数は2759件で、離婚率(人口千対)は1.61でした。いずれの数値も前年を下回っています。
離婚届を書いて、市区町村役場に提出することで離婚自体は成立します。しかし、多くの夫婦では、離婚届の提出以外にも、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割といった事項が問題になります。このような離婚給付等を伴う離婚については、離婚協議書を作成することはもちろんのこと、それを公正証書にしておくことが望ましいでしょう。
今回は、離婚給付の概要と離婚給付の取り決め内容を公正証書にした方が良い理由について、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚給付とは
離婚給付とはどのようなものなのでしょうか。以下では、離婚給付に関する概要について説明します。
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(1)離婚給付とは
離婚給付とは、離婚の際に夫から妻、または妻から夫に支払われる金銭その他の財産のことをいいます。婚姻期間が長くなるにつれて、婚姻生活中に築いた財産が多数ありますのでそれを清算する必要があります。
離婚とお金の問題は、切っても切り離すことができない問題ですので、離婚時にしっかりと取り決めをしておくことが大切です。 -
(2)離婚給付に含まれるもの
離婚給付には、以下のようなものが含まれます。
① 財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が築いた財産を離婚時に清算する制度です。財産分与では、原則として2分の1の割合で夫婦の共有財産を分けることになりますので、婚姻期間が長い夫婦では、財産分与の金額が高額になる傾向にあります。
② 慰謝料
配偶者の不貞行為、暴力などによって離婚に至った場合には、婚姻関係を破綻させる原因をつくった配偶者に対して、慰謝料請求をすることができます。慰謝料請求をする場合には、その原因となった事実を証拠によって裏付ける必要がありますので、離婚を切り出す前に十分な証拠を集めておくようにしましょう。
ただし、財産分与は、離婚後2年を経過すると請求することができなくなってしまいますので、忘れずに手続きをしましょう。
2、離婚給付以外に決めること
離婚をする場合には、離婚給付以外にも以下のとおり様々な事項を取り決めることがあります(以下、離婚給付と合わせて「離婚給付等」といいます。)。
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(1)親権者
夫婦に子どもがいる場合には、離婚時にはどちらか一方を親権者に指定しなければなりません(昨今、父母の双方が親権を持つ「共同親権」に関する法案が成立しましたが、まだ施行されていないため、現在はまだ「単独親権」です。)。財産分与や慰謝料などの離婚給付は、離婚後であっても決めることができますが、親権者が決まっていないと離婚をすることができません。
親権者をどちらにするのかは、離婚の際にもめやすい条件ですので、しっかりと話し合って決めるようにしましょう。後述する面会交流を充実させることによって、親権を獲得することができなかった側にも納得してもらうことができる場合がありますので、そのような方法も検討するとよいでしょう。 -
(2)養育費
また、子どもがいる夫婦では、離婚後の子どもの養育費などについて決めておく必要があります。
子どもがいる夫婦では、離婚によって親権を獲得した親が子どもと生活をすることになります。もっとも、親権者ではない方の親も、離婚をしたとしても子どもの親であることには変わりありませんので、子どもの養育費を支払わなければなりません。
そのため、離婚時には、養育費の金額やその支払い方法について取り決めをしておくことが大切です。 -
(3)面会交流
原則、親権を獲得した側の親が親権者として子どもと一緒に生活をすることになります。親権者ではない方の親は、子どもとの面会交流を行うことによって、離婚後も子どもとの交流を継続することができます。
夫婦の関係が良好であれば、離婚したあともお互いに連絡を取り合って、その都度面会交流の方法などを決めていくことができます。しかし、そうでない場合には、離婚時にある程度、面会交流の条件などを取り決めておいたほうが争いは少なく済むでしょう。面会交流の取り決めをする場合には、主に、以下のような事項についての取り決めをします。- 面会交流の頻度、時間、場所
- 子どもの受け渡し方法
- 当事者同士の連絡方法
- 宿泊の有無
- プレゼントのやり取り
- 学校行事への参加
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(4)年金分割
年金分割とは、婚姻期間中の夫婦の厚生年金を分割することができる制度です。たとえば、会社員の夫に扶養されている専業主婦の妻は、厚生年金に加入していませんので、そのままの状態で離婚をすると、老後はわずかな年金しかもらうことができません。
そこで、年金分割を求めることによって、将来の年金を増やすことができるのです。
ただし、離婚給付等は、請求可能な期間が限られている(例えば、財産分与や年金分割は、離婚後2年を経過すると請求することができなくなってしまいます。)場合があるので、忘れずに手続きをしましょう。
3、離婚に関する取り決めは公正証書にしておこう
離婚に関する取り決めをした場合には、その内容を公正証書にしておくことをおすすめします。
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(1)公正証書にしておく理由
離婚に関する取り決めをした場合には、その内容を離婚協議書などの書面に残しておくことが大切です。口頭での合意だけでは、合意内容をめぐって後日トラブルになる可能性があるからです。そして、離婚時に離婚給付等を伴う場合には、その内容を公正証書にしておくことを強くおすすめします。
慰謝料や財産分与を分割払いにした場合や、養育費の支払いは、支払いが終わるまでに長い期間を要することがあります。相手がしっかりと支払いを続けてくれればよいですが、何らかの事情によって途中で支払いがストップしてしまった場合には、法的手段によって未払いの金銭を回収する必要があります。
通常であれば、裁判を起こして判決を得たうえで、強制執行の申し立てを行い、債務者の財産の差し押さえをすることになりますが、「執行認諾文言」の記載のある公正証書を作成していれば、裁判手続きをスキップして強制執行の申し立てをすることが可能です。裁判をすることになれば時間も費用もかかることになりますので、それを省略することができるのは大きなメリットといえます。 -
(2)公正証書を作成する流れ
公正証書を作成する場合には、一般的に以下のような流れで進めていきます。
① 離婚公正証書原案の作成
まずは、夫婦で話し合いを行い、離婚をする場合の条件(財産分与、年金分割、慰謝料、親権、養育費、面会交流など)の取り決めを行います。
夫婦の話し合いで合意が得られた場合には、公正証書作成の元となる離婚公正証書の原案を作成します。しっかりとした内容の原案を作成しておけば、その後の手続きもスムーズに進めることができますので、細かい条件まで取り決めをしておきましょう。
② 公証役場での事前協議
離婚公正証書原案が作成できたら、お近くの公証役場の公証人との間で離婚公正証書の作成に向けた打ち合わせを行います。事前協議の段階では、夫婦のどちらか一方のみとのやり取りで足りることがほとんどです。
③ 必要書類の収集
公正証書の作成にあたっては、以下のような書類が必要になりますので、公証人に確認して、作成日当日までに準備をしておきましょう。- 当事者双方の本人確認資料(運転免許証など)
- 認印又は実印
- 夫婦及び子の戸籍謄本
- 離婚協議書(または離婚公正証書原案)
- (不動産の財産分与がある場合)不動産登記事項証明書と、固定資産評価証明書又は固定資産税納付通知書
- (年金分割をする場合)基礎年金番号の分かる資料(年金分割のための情報通知書又は年金手帳)
④ 公証役場で公正証書の作成
必要な書類が整った段階で、夫婦ふたりで公証役場に出向いて、公正証書の作成を行います。公証人は、作成した離婚公正証書を当事者に読み聞かせおよび閲覧をさせますので、間違いなければ当事者が原本に署名押印をすることによって離婚公正証書が完成します。
完成した離婚公正証書の原本は公証役場で保管され、正本(謄本も交付される場合があります)各1通が当事者に交付されます。 -
(3)公正証書作成の手数料
離婚公正証書を作成する場合には、公証役場で作成手数料を支払う必要があります。公正証書の作成手数料は、離婚公正証書で定める養育費や財産分与の金額によって、以下のように異なります。
目的の価額 手数料 100万円以下 5000円 100万円を超え200万円以下 7000円 200万円を超え500万円以下 1万1000円 500万円を超え1000万円以下 1万7000円 1000万円を超え3000万円以下 2万3000円 3000万円を超え5000万円以下 2万9000円 5000万円を超え1億円以下 4万3000円 1億円を超える場合 (省略)
もっとも、作成する証書の枚数に応じて加算されたり、正本や謄本の交付手数料などが発生したりすることがありますので、正確な金額は公証役場に確認するようにしましょう。
4、離婚給付等をきちんと受け取るために弁護士に相談を
離婚給付等をきちんと受け取るためにも弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適切な金額を算定してもらうことができる
離婚給付等は、養育費、慰謝料、財産分与など多岐にわたりますので、それぞれの給付に関して相場となる金額や算定方法などを正確に理解しておくことが大切です。
このような知識がない状態で離婚の話し合いをしたとしても、双方の条件が対立し、話し合いが長期化してしまうだけでなく、不利な条件で離婚の合意をしてしまう可能性もあります。そのため、まずは、慰謝料相場や年金分割・養育費などに詳しい弁護士に相談をして適切な金額を算定してもらうようにしましょう。 -
(2)相手との交渉を任せることができる
離婚をする場合には、離婚をするかどうかだけでなく離婚条件についても相手と話し合いをして決めていかなければなりません。夫婦関係が悪化した状態で話し合いをするのは大きなストレスとなりますので、そのような負担を軽減するためにも弁護士に依頼をすることをおすすめします。
弁護士であれば本人に代わって相手との交渉を進めることができ、話し合いによる解決が難しい場合には、調停や訴訟によって解決を図ることもできます。離婚の合意が成立した場合には、離婚給付公正証書作成のサポートもできますので、ひとりで離婚を進めていくことに不安がある場合には、早めに弁護士に相談をしましょう。
5、まとめ
離婚時には、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割といった離婚給付等が行われることが多いため、それらの条件を適切に取り決めることができれば、離婚後の経済的な不安を軽減することができます。
適切な条件を取り決めるためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠となりますので、離婚をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 津オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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