遺産相続は期限が過ぎたらどうなる? 過ぎたときのリスクや対処法
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2023年の三重県の統計によると、津市では1年間に3563名の方が亡くなったと報告されています。
被相続人が亡くなると遺産の相続手続きが発生しますが、遺産相続は複雑なケースも多く、期限を過ぎてしまうと延滞税がかかってしまうこともあるため、注意が必要です。
そこで今回は、期限がある遺産相続の手続き、期限を過ぎたら発生する税金や不利益とその対処法について、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産相続は手続きの期限が過ぎたらどうなる?
遺産相続の手続きの内容によっては、期間の制限があり、過ぎると不利益を受ける可能性があります。そこで、まずは手続きの期限が過ぎた場合、どのようなことが起こるのか、確認しておきましょう。
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(1)延滞税が発生する
遺産相続の手続きの期限が過ぎてしまうと、延滞税が発生する可能性があります。
たとえば、相続税は、相続開始を知った日から10か月以内に納税をしないと期日から起算した日数分の延滞税が発生します。また、税務署に相続税の申告をしないと、無申告加算税が課されることもあります。
漏れなく迅速に相続手続きを行うためには、弁護士や税理士に相談し、相続税や必要な手続きについてアドバイスをもらうと安心です。また、弁護士に依頼すれば、遺産の取り分の話し合いである遺産分割協議にも立ち会ってもらえるため、よりスムーズな相続が期待できるでしょう。 -
(2)控除や特例制度を利用できなくなる
遺産相続の手続きの期限を過ぎると、税金の控除や特例制度を利用できなくなる場合があります。
たとえば、小規模宅地等の特例や各種税金からの控除があります。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)の住居などに使用していた宅地を相続した場合、330平米までを限度として、その土地の評価を8割減額できる制度です。評価を減額することで相続税を減税することができます。
また、配偶者控除制度を使い、支払う税額を減らすことができます。なお、相続税額から控除できるものとして他に、未成年者控除、障害者控除、贈与税額控除などがあります。さらに、生命保険金や死亡保険金を受け取った場合、非課税限度額までは相続税が発生しません。
小規模宅地等の特例や配偶者控除を利用するためには、相続税の申告期限である相続発生から10か月以内に手続きを終える必要があります。 -
(3)遺産を受け取ることができない
相続人で遺産の分配について話し合う「遺産分割協議」には、期限の制限がありません。
しかし、遺産分割協議で、相続人全員が合意しないと、相続が完了せず各自が遺産を受け取ることができません。そのため、自分は相続財産の対象となっている土地を売りたいと思っても、一人だけの判断ではいつまでも売ることができないでしょう。
このように遺産分割の手続きについて法的な期限がなかったとしても、実際には不利益が発生することがあります。そのため、話し合いが難航しそうであれば、早いうちに弁護士に相談し、話し合いが円滑に進むよう備えておくようにしましょう。
2、期限がある遺産相続の手続き
遺産相続の中で期限が決まっている手続きの内容と、その期限を確認しておきましょう。
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(1)死亡届|7日
死亡届は、被相続人の死亡の事実を知った日から7日以内に管轄の役場へ提出します。手続きは、死亡診断書を持参し、市区町村の役場で行います。期限内に提出しないと5万円以下の過料に課される可能性があります。また、火葬許可証の取得には死亡届の提出が前提となっています。
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(2)相続放棄、限定承認、単純承認の選択|3か月
「相続をするか、放棄するか」という選択は、相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があります。すべての財産を相続(単純承認)するのであれば、特に準備するものはありません。
しかし、相続放棄するのであれば、家庭裁判所へ書面の提出が必要になります。また、一部の財産だけを相続(限定承認)するためには、相続人全員の同意が必要です。
3か月を過ぎてしまうと、相続放棄や限定承認をするつもりであっても、単純承認したことになってしまうため、早いうちに弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)相続税の申告|10か月
相続税の申告は、相続開始を知った日から10か月以内に行う必要があります。また、申告だけでなく、相続税を計算し、納税も行わなければなりません。
10か月を過ぎても申告しないと無申告加算税が発生します。また、納税が遅れると延滞税が発生します。さらに、相続税を隠すような悪質な場合には、重加算税が課されることもあります。そのため、相続財産がいくらあり、相続税がいくらになるのか、すぐに調べることが大切です。 -
(4)遺留分侵害額請求|1年
遺留分侵害額請求とは、遺言などにより遺留分(遺産の最低限度の取り分)が侵害された場合に、相続人として最低限度の遺産を他の相続人に請求できる権利をいいます。
たとえば、被相続である故人が「再婚相手にすべての財産を相続する」と遺言したとしても、再婚相手に自分が本来受け取るはずだった遺留分を金銭で請求できます。
ただし遺留分侵害額請求は、相続が開始され、遺留分侵害があったことを知ってから1年以内にしなければなりません。また、相続開始から10年が経過すると請求できなくなります。そして遺留分侵害額請求は相手との交渉が難航する可能性が高いため、早めに弁護士に相談するのが得策です。 -
(5)不動産の相続登記|3年
不動産の相続登記は、相続による不動産取得を知った日から3年以内に行う必要があります。不動産の相続登記とは、家や土地などの所有権を相続人に移転する手続きです。
不動産の相続登記は2024年4月から義務化され、3年を過ぎても未登記の場合、10万円以下の過料が課されます。そのため、不動産を相続し、自分が所有者になった場合には、早いうちに名義の変更をするようにしましょう。 -
(6)死亡保険金請求|3年
死亡保険金の請求は、原則、被相続人の死亡から3年以内にするようにしましょう。死亡保険金の支払い時期は各社で異なるため、今後の生活のためにも、忘れないうちに保険会社に問い合わせるようにしましょう。
3、期限がない遺産相続の手続きは手続きしなくてもいいの?
期限がない遺産手続きは、ついつい後回しになってしまいます。しかし、期限がなくとも早めに対応しなければ、相続の完了に影響する手続きがあります。
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(1)遺言書の検認
遺言書の検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を告知し、遺言書の偽造や変造を防止するために、未開封の遺言書を家庭裁判所で開封し確認する手続きをいいます。
遺言書が見つかった場合には、この検認という手続きを行わなければなりません。
遺言書の検認には期限がありません。しかし、検認をしなければ、遺言書に基づき遺産分割を進めることができません。また、検認をせずに遺産を分けてしまった場合は5万円以下の過料に処せられます。そのため、期限がないからといっていつまでも放置してはいけない手続きです。 -
(2)遺産分割協議
遺産分割協議も期限がない手続きです。しかし、遺産分割協議をしなければ、遺産を分配することができず、いつまでも遺産を使うことができません。
また前述の通り、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。そのため、被相続人の死後、各種手続きが終わり次第、早いうちに話し合いを始めましょう。
複数の相続人がいる場合や相続財産が高額な場合には話し合いが進まないケースもあります。そのような場合には弁護士を介して遺産分割を進めることも検討しましょう。 -
(3)名義変更
遺産分割をし、不動産や自動車、株式などを相続した場合、名義の変更が必要ですが、自動車や株式などの名義の変更に期限はありません。
しかし、株式の場合、名義変更をしなければ配当をもらうことができません。また、前述の通り、土地や建物などの不動産を相続した場合には、3年以内に名義の変更が必要です。3年を過ぎてしまうと10万円以下の過料が課される可能性があります。
そのため、不動産の名義変更(相続登記)をする際に、自動車や株式といった名義変更も同時に手続きするようにしましょう。
4、遺産相続の期限が過ぎそうな場合の対処法とは
相続手続きは思いのほか時間がかかります。相続の期限が過ぎそうな場合はどうすればよいか、対処法を紹介します。
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(1)相続放棄・限定承認の手続きが間に合わない場合
相続放棄・限定承認の手続きは、相続開始を知った日から3か月以内です。この期間内に手続きが間に合わない場合には、家庭裁判所に期間の延長の申し立てをすることになります。
もっとも、この申し立ては、相続放棄や限定承認と同様に3か月以内に行う必要があります。ただし、期間の延長は、必ず認められるものではなく、相続財産、相続人、協議の状況などを裁判所が考慮して決定します。 -
(2)相続税の申告が間に合わない場合
相続税の申告は、相続開始を知った日から10か月以内です。例外はあるものの、原則、10か月という期限を延長することはできません。しかし「遺産分割協議が膠着した」「すべての相続財産を調べきれない」などで、納税の期限に間に合わないケースもあります。以下、対処法を解説します。
・ 遺産分割ができていない
相続税の手続きは、原則として、遺産分割の内容を記載した書類を作成し、税務署に申告します。しかし、遺産分割ができていない場合には、未分割でも申告が可能です。
申告の際は、相続税の予定額より多めに申告して納税することで延滞税や無申告加算税が課されることを防止できます。もし税金を払いすぎてしまった場合は、遺産分割終了後、還付金として受け取ることが可能です。
・ 相続財産の評価ができていない
相続財産が、不動産や株式など多岐にわたり、金銭的評価の査定に時間がかかるため相続税の申告・納税期間に間に合わないこともあります。
この場合には、10か月という期限内に評価額の概算で申告と納税をします。このときも、概算より多めの金額で納税することが重要です。もし評価が確定した後に納税した額より実際の相続税が多くなってしまうと、延滞税や過少申告加算税が課される可能性があります。多めの額を納税しておけば、還付を受けることができるため、払いすぎてしまった分は戻ってきます。 -
(3)相続税を支払うことができない
相続税が高額ですぐに納税できないこともあります。その場合には、延納や物納という制度を利用しましょう。
・ 延納
延納とは、相続税を分割で納付することをいいます。最長20年の延納が可能です。しかし、相続税すべてが対象ではなく、納付が困難な金額が上限になっています。
延納は、下記の4つの条件をクリアする必要があります。- ① 相続税額が10万円を超える
- ② 現金での納付が困難な事情がある
- ③ 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供できる
※延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下の場合には担保は不要 - ④ 納付期限または延納申請期限までに、申請書を税務署長に提出する
・ 物納
物納とは、延納しても相続税を納付できない場合に限り、物で納税することをいいます。この物納は、延納しても納税できなかった場合にのみ利用できる制度のため、誰でも利用できるものではありません。
物納を行う場合、例えば土地や国債、株式などのケースがあります。 -
(4)遺産相続の期限が過ぎそうな場合
遺産相続の期限が近づいてきたが必要書類の記載ができていないという場合には、すぐに弁護士に相談しましょう。
期限が過ぎてしまうと、前述の通り、相続放棄や各種控除の手続きができなくなったり、延滞税を支払うことになったりするおそれがあります。早めに弁護士に相談することで、相続がスムーズに進む可能性が高まります。
5、まとめ
遺産相続の手続きの期限が過ぎると延滞税や無申告加算税が課されたり、税金の控除や特例制度が利用できなくなったりします。そのため、どの手続きをいつまでに行う必要があるのか、しっかり把握することが肝心です。また、期限のない手続きも、相続を進めるためには欠かせないものもあるため、できるだけ早いうちに終わらせることが重要です。
相続の手続きの期限が過ぎそうな場合、すぐに弁護士に相談しましょう。ベリーベスト法律事務所 津オフィスでは、遺産相続の解決実績のある弁護士がお一人おひとりの事情に合わせて、最適なアドバイスをいたします。遺産相続でお悩みの場合、期限が過ぎそうな場合、まずはお気軽にご相談ください。
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