相続財産の空き家を放置するとどうなる? 罰則と対処法
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平成30年に総務省が実施した住宅・土地統計調査によれば、三重県内の住宅は約85.4万戸で、そのうち約13万戸が空き家となっています。住宅総数に占める空家率は15.2%で、全国平均の13.6%と比べて高い水準です。
相続財産に空き家が含まれている場合、どのように空き家を処理するか悩ましいところです。管理が面倒などの理由で空き家が放置されるケースも多いですが、行政代執行や税負担増加などのリスクがあります。そのため、相続人同士でよく話し合ったうえで、適切な形で対応しなければなりません。
今回は、相続財産に含まれる空き家について検討すべき事項や、空き家を放置した場合に相続人が負うリスクなどを、ベリーベスト法律事務所 津オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「空き家の現状」(三重県))
1、相続財産に空き家が含まれていた場合、検討すべきこと
相続財産に空き家が含まれている場合、相続する人や管理の方法などを決めなければなりません。特に空き家の管理については、たらい回しにされるケースも多いですが、後日トラブルに発展することを防ぐためにも、必ず対応方法を検討しておきましょう。
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(1)誰が空き家を相続するか
相続財産中の空き家については、相続する人を決める必要があります。
遺言書によって空き家を相続する人が指定された場合、原則としてその人が空き家を相続します。ただし、受遺者は空き家の遺贈を放棄することも可能です(民法第986条第1項)。
遺言書がない場合や、遺言書によって空き家の相続人・受遺者が指定されていない場合、または受遺者が空き家の遺贈を放棄した場合には、遺産分割協議によって空き家を相続する人を決めます。遺産分割協議は、相続人(+包括受遺者)が全員で行わなければなりません。
遺産分割協議では、管理の難しさなどから、空き家の相続を申し出る相続人が誰もいないケースも考えられます。しかし、全員が相続放棄をする場合などを除いて、相続人のうちの誰かが空き家を相続しなければなりません。そのため、他の遺産の分け方も含めて、うまく調整を行う必要があります。 -
(2)空き家をどのように管理するか
空き家については、単に相続する人を決めるだけでなく、管理の方法についても話し合っておく必要があります。後述するように、空き家を適切に管理せずに放置していると、倒壊などによる近隣トラブルのおそれがあるからです。
空き家の管理方法については、相続により所有者となる人が決めるのが原則です。
ただし、所有者が自ら空き家を管理するのが難しい場合は、他の相続人や管理業者に管理を委託することも考えられます。
他の相続人に空き家の管理を委託する場合は、委託の条件などを遺産分割協議と併せて話し合っておきましょう。また、空き家の管理費用を所有者以外の相続人にも負担させる場合は、その旨を遺産分割協議書などに明記しておくことが大切です。
2、空き家を放置するとどうなる?
相続した空き家を適切に管理せずに放置した場合、近隣トラブル・行政代執行・税負担増加などのリスクを負うことになります。そのため、遺産分割協議を通じて早めに管理のめどをつけましょう。
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(1)空き家が倒壊して近隣トラブルに発展する
老朽化した空き家は、地震や台風などの自然災害をきっかけに倒壊するおそれがあります。
空き家の隣に他人所有の家などがある場合、倒壊すれば近隣トラブルの発生が避けられません。場合によっては、空き家の所有者が隣人に対して巨額の損害賠償責任を負う可能性もあるので、老朽化による倒壊リスクには常に注意が必要です。 -
(2)行政代執行により空き家が取り壊される|費用は所有者等の負担
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家等対策特別措置法)では、一定の要件を満たす空き家につき、行政代執行によって取り壊すことを認めています。
行政代執行とは、行政主導で市民が負う義務を強制的に履行した後、かかった費用を義務者に請求する手続きです。空き家が行政代執行によって取り壊された場合、数百万円単位の取り壊し費用が、すべて所有者または管理者の負担となります。
思いがけず巨額の出費を強いられることになりますので、十分注意が必要です。
行政代執行による取り壊しの対象となるのは、以下のいずれかに該当する空き家です(空家等対策特別措置法第2条第2項)。これらの空き家を「特定空家等」といいます。- そのまま放置すれば、倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば、著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより、著しく景観を損なっている状態
- その他、周辺の生活環境の保全を図るために、放置することが不適切である状態
特定空家等の行政代執行に先立ち、市町村長による指導・助言・勧告・命令が行われます(同法第14条第1項~第9項)。
段階が進むに連れて行政代執行が近づきますので、早い段階で空き家について適切な処理を行う必要があります。 -
(3)固定資産税等の軽減特例の適用を受けられなくなる
住宅の敷地(住宅用地)となっている土地については、特例措置によって固定資産税・都市計画税が軽減されています。
しかし、2015年の税制改正により、特定空家等について市町村長から周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるべき旨の勧告を受け、適切な是正措置が講じられない場合、その敷地である土地については、固定資産税・都市計画税の軽減特例の適用を受けられなくなりました。
軽減特例の適用を受けられないと、固定資産税・都市計画税の額が3倍から6倍になります。税負担の大幅な増加となる点に十分注意が必要です。
3、空き家を相続したくない場合の対処法
空き家を相続したくない場合は、他の相続人に空き家を相続してもらうか、または相続放棄を行うことが考えられます。
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(1)他の相続人に相続してもらう
他の相続人のうち、誰かが空き家の相続を申し出てくれる場合は、その人に空き家を相続してもらうのがよいでしょう。
ただし、空き家の資産価値が低い一方で、管理の負担が重い場合には、誰も空き家を相続したがらない可能性が高いです。その場合は、空き家を相続してくれる人に多めの相続分を割り当てるなど、遺産分割全体のバランスを考慮した調整が必要となるでしょう。 -
(2)相続放棄をする
空き家の相続を回避するには、相続放棄をする方法がもっとも確実です。相続放棄とは、相続財産に含まれる財産・債務を一切相続しない旨の意思表示を意味します。
相続放棄をした者は、初めから相続人とはならなかったものとみなされ、相続権をすべて失います(民法第939条)。
したがって、相続放棄をすれば、空き家を相続せずに済みます。
相続放棄を行う際には、他の相続人の同意は必要ありません。ご自身の判断だけで空き家の相続を回避できる点が、相続放棄のメリットのひとつです。さらに、亡くなった被相続人が借金を抱えていた場合などは、相続放棄がいっそう有力な選択肢となるでしょう。
ただし、相続放棄をすると、他の遺産も一切相続できなくなってしまいます。特に何か相続したい遺産がある場合には、相続放棄をすることでその遺産を諦めなければならない点に注意が必要です。
また、相続放棄は原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条第1項)。
期限を過ぎても相続放棄が認められるケースはありますが、確実ではなく、手続きも煩雑になります。そのため、期限内に相続放棄の手続きが完了するように、計画的に準備を進める必要があります。
お問い合わせください。
4、遺産相続に関するお悩みは弁護士へご相談を
空き家を含めた不動産の相続問題など、遺産相続に関するお悩みをお抱えの方は、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、煩雑な相続手続きの対応を一括して代行いたします。また、空き家の相続問題のように法的に難しい論点についても、ご家庭の状況に合わせて対処方法をアドバイスいたします。
相続人同士で揉めてしまった場合でも、弁護士が間に入って調整を行うことで、円満・迅速に解決できる可能性が高まります。遺産相続に関するトラブル・お悩み・疑問点は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
相続財産に含まれる空き家を放置していると、倒壊による近隣トラブル、行政代執行、固定資産税・都市計画税の増加といったリスクを負うことになります。空き家の相続問題を円滑に解決するためには、弁護士へのご相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関する法律相談を随時受け付けております。遺産分割の調整や、その他の各種相続手続きにつき、経験豊富な弁護士が親身になってサポートいたします。
グループ内に税理士・司法書士などの隣接士業も所属しておりますので、あらゆる相続手続きについてワンストップでご相談可能です。空き家など、不動産に関する相続問題についてお悩みの方は、ご自身だけで抱え込むことなく、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 津オフィスにご相談ください。
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