仮取締役選任の申し立てにより好条件で和解が成立した事例

  • CASE1233
  • 2025年03月17日更新
  • 法人
  • 仮取締役選任

ご相談内容

A社は、2人の兄弟が設立して成長した会社ですが、その兄弟が亡くなり、それぞれの子どもであるXとYが半分ずつ株式を相続し、Xが代表取締役社長、Yが専務取締役、X・Yの叔父Sが取締役の体制で運営されていました。

ところが、Xが病気で3か月ほど入院した際に、YとSがXから社長の座を奪い取り、事実上Xが会社から追い出された形になりました。

Xは、A社の経営権を取り戻したいと考えてベリーベストに相談しました。

ベリーベストの対応とその結果

1、Xの置かれた立場
A社の取締役はX・Y・Sの3名でした。代表取締役は取締役の過半数によって決定されます。現在、Y・Sによって取締役会の過半数を取られているので、Xは代表取締役に復帰できません。

また、A社が長年にわたって取締役の選任をしていなかった結果、X・Y・Sの3名とも正式な「取締役」ではなく、新たな取締役が選任されるまでの間だけ取締役としての役割を果たす「権利義務取締役」となっていました。「権利義務取締役」は裁判所に対して取締役の解任を訴えられる対象ではないため、裁判所に対しY・Sの取締役解任の訴えもできません。

さらに、Xが持つA社の株式を売却しようにも、A社の定款では会社の承認(つまり、取締役の過半数の承認)がなければ株式譲渡ができないと定められていたため、株式売却もできませんでした。

2、ベリーベストによる解決策の提案と依頼者の決断
このような八方ふさがりの中、ベリーベストは、裁判所に対する仮取締役選任の申し立てという比較的珍しい手段によって、代表取締役の地位を取り戻すプランを提案し、委任を受けました。

会社法には、取締役が欠けて裁判所が必要と認めるときには新たな取締役が決まるまで一時的に取締役の職務を行う「仮取締役」を選任することができる規定があります。仮取締役が選任されれば、「権利義務取締役」はその役割を終えることになります。A社で仮取締役が選任されれば、X・Y・Sの3名とも「権利義務取締役」でなくなり、登記上も「取締役」から外れることになるのです。

ベリーベストの提案は、仮取締役の選任によって現状を振り出しに戻し、その後、XはYと対等の立場でA社の経営について交渉し直すというものでした。

3、裁判中の苦難
裁判所は、当初から、仮取締役選任には消極的な姿勢でした。なぜなら、仮取締役を選任したとしても、対立するXとYが50%ずつの株式を保有している以上、株主総会でも対立が続いて決まらず、新たに取締役が選任される見込みがないためです。仮取締役には弁護士が選任されるのが通常ですが、解決時期の見通しがつかない状況では、引き受ける弁護士が見つかる見込みが乏しいことも、裁判所が消極的であった理由のようです。

一方、Yは、仮取締役選任を争うだけでなく、Xの取締役報酬の支払いも止めてきました。Xは、経営権を奪われただけでなく、生活資金も止めら、厳しい状態となりました。

4、裁判の行方
Xとベリーベストは、裁判の中でYの落ち度を強く追及すると同時に和解交渉を進めました。
その結果、Xにとって予想外の好条件での和解が成立したのです。Xは会社を好条件でYに譲り渡した上で、未払いの役員報酬と、判決では勝訴でも考えられない数百万円もの慰謝料相当の金銭を獲得することができました。

解決のポイント

本件では、仮取締役選任の申し立てという珍しい手続きにより紛争を裁判所に持ち込んだことで、紛争解決に向けての交渉が進み、好条件の和解獲得を実現することができました。特に和解において、株価の算定が大きなポイントとなりました。

株価の算定は、複雑なもので、全ての弁護士が十分な知見を持っているものではありません。Y側の弁護士は株価算定に不慣れのようでしたが、ベリーベストは、グループ内に税理士法人も抱えており、株価算定の案件に対する豊富な経験がありました。そのため、株価の算定は常にベリーベストが主導し、有利な査定結果が出るように誘導することができました。

また、手続きの困難さを裁判所に印象付けて解決の難しさをアピールしつつ、Yの数多くの不正行為や会社運営のずさんさを主張立証し、Xの正当性を裁判所に印象付けて裁判所を味方につけたことも、和解交渉が有利に推移したポイントです。

Xからは、当初八方ふさがりと言える状況であり、紛争中も苦しい状況が続きましたが、結果的に好条件での解決を実現できたと満足いただきました。

全国の各オフィスから寄せられた解決事例をご紹介しております。(※ベリーベスト法律事務所全体の解決事例となっています)